未来はあまりに遠いし、おれはもう待てない

SF小説やプログラミングの話題を中心とするフジ・ナカハラのブログ

SF創作講座第2回を終えて

一昨日、ゲンロン 大森望 SF創作講座 第3期 の第2回講評会が開催された。 ゲスト講師は、藤井太洋@t_trace と、講談社の河北壮平氏 @so__hei だ。

第2回の課題は「スキットがなきゃ意味がない」である。 これに対し、36編の梗概が提出され、私は『リアル・サイボーグ』というタイトルのものを出した。 この講座では、審査員が提出された梗概の中から3編を選出し、選ばれた受講生は次回までに実作を書くことになっている。今回、私の作品がその内の1編として選出された。

また、第1回課題「AIあるいは仮想通貨を題材に短編を書け」で選出された4編と自主提出5編の実作講評も行われ、10点+未提出者2名分の2点が各作品に割り振られた。 詳細な結果や各作品の内容については、課題ページを参照してほしい。 今回、私は実作を提出していない。

課題について

「スキットがなきゃ意味がない」だけではわかりにくいが、詳細のところに次のように書かれている。

今回のテーマは自由。
ただし、二単位以上の登場人物が最低でも三回以上、魅力的なやり取りをする内容を含んだプロットを提出してください。

つまり、梗概に3回以上の面白い会話を盛り込め、というのが今回の課題である。

さらに、SFにおける会話の役割について、次のような説明がある。

どんな前提だってありうるのがSFですが、それをわずか数行で表現できるのが会話です。

これは、設定を地の文でダラダラと説明するのではなく、「会話」を使って端的に書け、ということである。 講義の中でも、「設定ばかりを書いた梗概が多いので、あえて会話を入れさせることでそうした梗概になるのを防ぐ意図があった」と出題者の藤井太洋氏が述べていた。

作品について

前回記事の最後にも書いたが、今回の課題では、「会話」だけでなく、その発話を行う「キャラクター」も重要だと考えた。 複雑な背景をもつキャラクターを設定しつつ、それをむやみに説明することなく会話で表現する課題と解釈したのだ。 そこで、まずキャラクターをつくり、次にその特徴を表す発言を考えることにした。

私の好きなキャラクターに、『攻殻機動隊』の草薙素子というキャラクターがいる。 特に、神山健治監督によるS.A.C. アニメシリーズの草薙素子が好きだ。 シンプルに、彼女をモデルにした主人公を考えることから始めた。

また、主人公が全身を機械化(義体化)したサイボーグという設定もそのまま拝借した。 ただ、映画やアニメでよく描かれる、「人間と同じ姿をした人間より強いサイボーグ」というものに前々から疑問を持っていたので、「不気味の谷を感じさせる人間より弱いサイボーグ」を設定することにした。 これは、アピール文にも書いている。

さて、彼女を端的に表現する会話とはなんだろう。 彼女の特徴は、機械の身体と、ひたすらに強い性格である。 これを、一言ないし二言で表現せねばならない。

ここで、RebuildというPodcastで聞いたGoogle Duplexの話 1 を思い出す。 Google Duplexは、「○月☓日に△人でどこどこの店を予約」と入力すると、AIが合成音声を使って電話予約するという、Googleが開発中のサービスである。 今年5月に発表されたときのデモが話題になった。 しかし、AIであることを知らせずに電話をかけるのはタチが悪いという批判を受けて、はじめにAIだと名乗るようになったらしい。

電話予約のような決まったやり取りであれば、相手が人間かAIかを判別できなくなってきている。 そして、判別できないと上記のような批判があるので、Google Duplexのように、はっきりとAIであるとわかる仕組みが必要になってくる。 電話であれば最初に名乗るのが自然であるが、名乗る余裕がなかったり毎回名乗っては煩雑だったりする場合は、こちらから問いかけることになるだろう。

この問いは、人間と機械の中間的存在であるサイボーグが、機械ではなく人間であることを明確に示す質問としても使える。 そして、その答え方いかんで、キャラクターの性格を表現することもできそうだ。 そう考えて、〈確認の問い(ベリファイ・クエリ)〉というギミックが生まれた。

あとは、草薙素子が “あなたはロボットですか?” という問いにどう答えるかを考えるだけである。 結果は、提出した梗概に書いたとおりだ。 ただ、出てきたセリフは、おそらく草薙素子なら言わないだろうな、というものになった。 この時点で、主人公は「草薙素子」ではなく、「ケイ」になった。

ここで、問題が生まれる。 〈確認の問い〉のシーンをざっと書くだけで、上限の1200字を超えてしまったのだ。 ここから先は、いかに文字数少なく話をまとめるかという方向へシフトした。 オリジナルの設定であるサイボーグの「弱い身体」と、ケイの持つ「強い心」のコントラストを描く方向で話をまとめた。 その辺りの細かい過程はあまり覚えていない。

講評について

〈確認の問い〉の一連の会話におけるケイの言葉が、キャラクターを端的に表す名台詞だというコメントをいただいた。 これはまさしく狙い通りだったので、素直に嬉しかった。

また、「サイボーグの同級生」という序盤のインパクトもよいとのことだった。 「書き出し」をツイートする @genron_sf_bot を運営していることもあって、冒頭には特に注意を払っているので、この点も嬉しかった。 ただ、「百二十年ぶりの唐揚げだった」という前回の冒頭のほうが、今回よりもうまくいった気がしている。

講評の後半、大森さんにはこの作品の良くないところを的確に指摘された。

まず、「後半の会話が最低」とのことだった。 テーマをセリフで説明してしまっている。 正直なところ、指摘されるまで気づいてなかったのだが、指摘されてすぐに納得してしまった。 前回、描写が課題だと感じて『感情類語辞典』を購入したと書いたが、まだ1文字も読めていない。 次こそは、説明せずに描写できるようにしたい。

また、「SFではないと思ったので丸をつけなかった」とも言われた。 私自身、SFになっていないと思っていたので、ぐうの音も出ない。 特に、作中の「サイボーグ」について詳細を詰められていないのを見抜かれていたように思う。 私の専門はコンピュータ・サイエンスであって、制御工学や神経生理学といった分野やサイバネティクス方面の知識はほとんどない。 そういった詳細を描くことから逃げるように、十代の頃に書いていた青春小説っぽいものへと、いつのまにか方向転換してしまっていた。 この方向で小説を書きたいと考えているわけではないので、今後は科学考証から逃げないようにしたい。

とはいえ、藤井太洋氏の推薦もあり、今回は実作へ進む3編に選ばれることができた。 実作する際は、以上の反省を踏まえて、期待に応えられるものを書き上げたいと思う。

次回について

次回の課題は「生き物を作ってみよう!」である。

せっかくSF書くんだもん、私達の誰も知らない生き物を作ってみませんか?

とのことだ。また、1点だけ条件がつけられている。

ただし。生態だけは、ちゃんと設定してください。

比較的わかりやすい課題だと思う。 今回は「会話」という技術的側面の課題だったが、次回はアイデア勝負の側面が強くなりそうだという印象を受けた。

実のところ、実作を書くので手一杯になりそうで、梗概を提出できるかは分からない。