未来はあまりに遠いし、おれはもう待てない

SF小説やプログラミングの話題を中心とするフジ・ナカハラのブログ

2020年振り返り

小説執筆

約1年半前、SF創作講座3期を終えたとき次のように書いた。

これからは、仕事の合間に少しずつ、小説の文章を書く力を磨いていこうと思う。

しかし、その後1年間まったく小説が書けなかった。 講座が終わった直後は意識的に小説執筆を休んでいたのだが、そのままずるずると休み続けてしまった。 受講生時代に「(SF創作講座は)講義より締切に価値がある」と聞いたときはピンとこなかったが、いまならわかる。

7月、そろそろ小説を書こうと思ったとき、ちょうど5期の募集がはじまったので聴講生として申し込んだ。 受講生でないのは、全然実作が書けなかった前回の二の舞になるのが目に見えていたからである。

9月には星新一賞に応募した。 9月末で期限切れの有給休暇があったので、連休をつくって締切10日前から一気に書き上げた。 新人賞応募は実に10年ぶりである。 残念ながら、12月に発表された3次審査通過作品のリストにはなかった。 (今チラッと読むと、序盤の段階でたしかにこれは通らないと思った。)

ほかに、後述する裏SF創作講座むけに「小説つばる「新人SF作家特集号」の依頼」という1200字のショートショートを書いた。 これはSF創作講座の同名の課題に対するネタである。 ダールグレンラジオで取り上げてもらえたのがうれしかった。 ちなみに、主人公「大川サトミ」は大森望・小川哲両先生のもじりである。

来年は月に1編……は無理でも季節ごとに1編くらい短編を書きたいところ。 来月締切の創元SF短編賞には出せそうもないのだが……。

ソフトウェア開発

7月に「裏SF創作講座」というSF創作講座の裏サイト(ファンサイト)をリリースした。 開発した動機は、第一に5期聴講生としてSF創作講座をより楽しむため、第二に3期受講時に開発して放置していたツイッター bot が壊れたのを作り直すためである。 Ruby on Rails で開発して Heroku Free Dyno と Heroku Scheduler で運用している。

また、10月には Makimono という EPUB 生成ツールを開発した。 これについては記事を書いている(これが2020年唯一のブログ記事だった)。

これらは来年も引き続き改善・メンテしていきたい。

その他

今年買って一番よかったものは iPad Air 4(と Smart Keyboard Folio)である。 それまでは Mac mini で執筆していたのだが、これだと家のデスクでしか書けない。 iPad の導入によって出先でも寝ながらでも書けるようになり、小説執筆のハードルがだいぶ下がったと思う。 ちなみにこの記事も iPad で書いている。 iPad で小説を書くための工夫もいくつかあるので、また別の記事でまとめたい。

ところで、コロナ禍についてここまで言及しなかった。 影響がなかったといえば嘘になるが、もともとリモートワーク可の会社かつ引きこもり気質だったので比較的影響は薄い方だったと思う。

東京都の新規感染者1300人超えというニュースを聞きながらこの記事を書いているが、来年はどうなるだろう。

マークダウンから EPUB を生成するコマンドラインツール Makimono をつくった

使い方

日本語の README がリポジトリにあるのでそちらを見てください。

なぜつくったか

これまでは小説を Jekyll のフォーマットで書いて Jekyll + jekyll-build-ebook で電子書籍を生成していた。 しかし、Jekyll は静的サイトジェネレータであり、電子書籍だけを生成するには不要な機能が多い。 そこで、Makimono では電子書籍の生成だけを目的に、よりシンプルなフォーマットで小説を書けるようにすることを目指した。

類似のツール

でんでんコンバーター

マークダウンを電子書籍に変換する Web アプリケーション。 Makimono の使い方がわからない、Makimono では機能が足りない、という場合はこちらを使うのがよい。 ただ、プログラムから利用する方法が提供されていないため、CI で電子書籍の作成を自動化したいという私の用途には合わなかった。 Makimono のインターフェースもでんでんコンバーターを参考にしたところが大きい。

Cheepub

1ファイルのマークダウンから EPUB や PDF を生成できるコマンドラインツール。 1ファイルで手軽にやりたいというときはこちらがおすすめ。 私の場合は、複数ファイルに分けて書きたいのと、マークダウンの変換に FujiMarkdown を利用しかったというのがあり、採用を断念した。

Makimono + GitHub Actions による電子書籍のリリース自動化

小説のリポジトリに以下のような .github/workflows/ebook.yml を追加して、tag を push すると EPUB をビルドして GitHub Releases にアップロードするようにしている。

on:
  push: [ tags ]
jobs:
  build:
    runs-on: ubuntu-latest
    steps:
      - uses: actions/checkout@v2
      - uses: ruby/setup-ruby@v1
        with:
          ruby-version: 2.7
      - run: gem install makimono
      - run: makimono build
      - uses: actions/create-release@v1
        id: create_release
        env:
          GITHUB_TOKEN: ${{ secrets.GITHUB_TOKEN }}
        with:
          tag_name: ${{ github.ref }}
          release_name: Release ${{ github.ref }}
      - uses: actions/upload-release-asset@v1
        env:
          GITHUB_TOKEN: ${{ secrets.GITHUB_TOKEN }}
        with:
          upload_url: ${{ steps.create_release.outputs.upload_url }}
          asset_path: out/book.epub
          asset_name: ${{ github.event.repository.name }}.epub
          asset_content_type: application/epub+zip

ゲンロン 大森望 SF創作講座を終えて

一昨日、第3回 ゲンロンSF新人賞選考会 が行われた。 これは、ゲンロン 大森望 SF創作講座 第3期 の最終講評会でもある。 つまり、このブログ、そして「フジ・ナカハラ」が生まれるきっかけとなったSF創作講座第3期が終わったのである。

選考会のようすはYouTubeに動画が公開されているので、ここでは触れない。 私は作品を提出しておらず、当日も現地参加せず生放送で見ていた。 この記事では、SF創作講座第3期を終えた現在の心境について書こうと思う。

このブログの最初の記事「ゲンロン 大森望 SF創作講座に申し込んだ」で、私は次のように書いた。

わたしは今回のSF創作講座を小説家になる最後のチャレンジにするつもりである。 この一年はSF小説を書くことに費やして、それでもチャンスがなければ職業SF作家になるのはさっぱり諦める。

新人賞をのぞいた全9回の課題において、私は6回梗概を提出し、3回選出された。 そのうち2回で実作を提出し、それぞれ1点という結果だった。 梗概の選出回数は比較的多い方ではあるが、合計点は8点で、48人中21位という成績である。 48人の中には一度も課題を提出していない受講生もいるので、お世辞にもよい成績とはいえない。 もちろん、ゲスト編集者から声かかかったり、講座外の新人賞に入賞したりといったこともなかった。

一年前の宣言どおり、職業SF作家になるのは諦めようと思う。

それは、SF小説を書くのをやめるということではない。 講座を通して、物語やSF的なギミックを考えることがやはり好きだとわかった。 与えられたお題に対して梗概を書くのは楽しかったし、手応えもあった。 いっぽうで、梗概のアイデアを文章に落とし込み、実作へと昇華する技術がまだまだ足りないということもよくわかった。 これからは、仕事の合間に少しずつ、小説の文章を書く力を磨いていこうと思う。 そして、作品が完成すればWebに投稿するつもりだ。 つまり、やることは今までとなんら変わらない。 ただ、職業作家を目指すのは諦めるというだけである。

実のところ、これは「夢を諦めた」というような大層な話ではない。 私の現在の職業はソフトウェアエンジニアであるが、1年前はたしかに向いていないと思っていた。 しかし、小説を書き始めると同時に、執筆をサポートするソフトウェアもつくり始め、気づけばこの1年で2つのVS Code Extensionと7つのRuby gemを公開していた。 仕事に加えてプライベートでもコードを書いていたわけだが、これは苦ではなく、むしろ楽しく書くことができた。 他にも、第4回課題でプログラミング言語を使った小説を書いたり、Twitterの発言も情報技術に関するものが多かったりと、思いのほかソフトウェアエンジニアが板についていたのである。 それに対し、選出されたというプレッシャーを背負って締切に追われながら実作を書くのは、正直なところけっこう苦しかった。 加えて、講座のゲスト作家や編集者から作家という職業の現実の話も聞き、職業作家になりたいという気持ちはだいぶ薄れてしまった。 そういった事情もあり、小説を書くのは趣味くらいがちょうどよいのかなと思うようになっていたのである。

つまるところ何が言いたいかというと、SF創作講座を終えたこれからも、ソフトウェアエンジニア兼アマチュアWeb作家の「フジ・ナカハラ」として活動していくのでよろしく、ということだ。

あらためて、よろしくお願いします。

SF創作講座第8回を終えて

一昨々日、ゲンロン 大森望 SF創作講座 第3期 の第8回講評会が開催された。 今回のゲスト講師は、小川哲氏と、早川書房の奥村勝也 @kokumurak 氏だ。

第8回の課題は「「天皇制」、または「元号」に関するSFを書きなさい。」というもので、23編の梗概が提出された。 私は『式年遷皇』というタイトルのものを書いた。 この講座では、提出された梗概の中から3あるいは4編を講師が選出し、選ばれた受講生は次回までに実作を書くことになっている。 今回、私の作品がその内の1編として選出された。

また、第7回課題「経過時間を設定してください」で選出された3編と自主提出8編の実作講評も行われ、10点+未提出者25名分の25点の計35点が各作品に割り振られた。 今回、私は実作を提出していない。

課題について

課題の詳細は次のようなになっている。

平成という時代が終わるまでの数ヶ月、「天皇制」とは何か、「元号」とは何か、国民全員が改めて考える時期となるでしょう。
こういった内容に踏み込んで自由に創作できるのは、今だけです。

かなり限定されたテーマですので、「天皇制」や「元号」については可能な限り広義の意味で解釈して構いません。(中略)必要とされるのは、SFを通じて初めて可能になる視点から、「天皇制」や「元号」について真摯に考えることです。

かなり攻めたテーマである。 「天皇制」も「元号」も数千年の歴史ある仕組みであり、現代でも大きな意味を持っている。 「必要とされるのは、真摯に考えること」と書かれているが、本当に「真摯に」向き合うとなると生半可なことではない。 それも「SFを通じて初めて可能になる視点から」である。 この点で難易度はさらに上がる。

課題を聞いた瞬間は面白いと思ったが、すぐに厄介なテーマだと感じるようになった。 私自身は、天皇制にも元号にも大した関心を払ったことがなく、高校以前に習った以上のことは何も知らない。 まずは調べるところからだが、やはり興味の薄い分野なのであまり身が入らない。 「SFを通じて初めて可能になる視点」となるとさっぱり見当がつかなかった。

結局、締切2日前までろくに調査が進まず(年末年始を挟んだこともある)、難しく考えることはやめた。 とりあえず「未来の天皇制」を書けばSFっぽくなるだろう。 また、天皇制に真っ向から立ち向かうとボロが出るので、比較的他人より詳しいコンピュータ・サイエンスっぽい話にすりかえたい。 そんな漠然としたところから梗概を書き始めた。

余談だが、小川氏は「新しい人権または差別を考えなさい」というような課題にするか迷っていたらしい。 前々回の課題で〈血縁差別〉について書いたばかりだったので、「人権」よりは「天皇」で良かったと思う。

作品について

着想はアピール文に書いたとおりである。 講座も8回目ということで、1,200字の梗概(いつも少し超えてしまうが)もだいぶ書き慣れてきた。

講評について

小川氏と奥村氏は丸、大森さんは三角という評価だった。 ただし、小川氏の丸は二重丸・丸・三角の三段階評価の丸といったもので、今回二重丸に該当するものはなかったらしい。

正直、今までのものと比べると自己評価がかなり低かったので、講座での評価は意外だった。 講師の方たちが「ヴァーチャルな天皇」に私自身が考えていた以上の意味を見出していたように感じる。 選出されたので実作を書くつもりではあるが、いかんせん書くことになるとは思っていなかったので苦戦しそうだ……。