未来はあまりに遠いし、おれはもう待てない

SF小説やプログラミングの話題を中心とするフジ・ナカハラのブログ

ゲンロン 大森望 SF創作講座を終えて

一昨日、第3回 ゲンロンSF新人賞選考会 が行われた。 これは、ゲンロン 大森望 SF創作講座 第3期 の最終講評会でもある。 つまり、このブログ、そして「フジ・ナカハラ」が生まれるきっかけとなったSF創作講座第3期が終わったのである。

選考会のようすはYouTubeに動画が公開されているので、ここでは触れない。 私は作品を提出しておらず、当日も現地参加せず生放送で見ていた。 この記事では、SF創作講座第3期を終えた現在の心境について書こうと思う。

このブログの最初の記事「ゲンロン 大森望 SF創作講座に申し込んだ」で、私は次のように書いた。

わたしは今回のSF創作講座を小説家になる最後のチャレンジにするつもりである。 この一年はSF小説を書くことに費やして、それでもチャンスがなければ職業SF作家になるのはさっぱり諦める。

新人賞をのぞいた全9回の課題において、私は6回梗概を提出し、3回選出された。 そのうち2回で実作を提出し、それぞれ1点という結果だった。 梗概の選出回数は比較的多い方ではあるが、合計点は8点で、48人中21位という成績である。 48人の中には一度も課題を提出していない受講生もいるので、お世辞にもよい成績とはいえない。 もちろん、ゲスト編集者から声かかかったり、講座外の新人賞に入賞したりといったこともなかった。

一年前の宣言どおり、職業SF作家になるのは諦めようと思う。

それは、SF小説を書くのをやめるということではない。 講座を通して、物語やSF的なギミックを考えることがやはり好きだとわかった。 与えられたお題に対して梗概を書くのは楽しかったし、手応えもあった。 いっぽうで、梗概のアイデアを文章に落とし込み、実作へと昇華する技術がまだまだ足りないということもよくわかった。 これからは、仕事の合間に少しずつ、小説の文章を書く力を磨いていこうと思う。 そして、作品が完成すればWebに投稿するつもりだ。 つまり、やることは今までとなんら変わらない。 ただ、職業作家を目指すのは諦めるというだけである。

実のところ、これは「夢を諦めた」というような大層な話ではない。 私の現在の職業はソフトウェアエンジニアであるが、1年前はたしかに向いていないと思っていた。 しかし、小説を書き始めると同時に、執筆をサポートするソフトウェアもつくり始め、気づけばこの1年で2つのVS Code Extensionと7つのRuby gemを公開していた。 仕事に加えてプライベートでもコードを書いていたわけだが、これは苦ではなく、むしろ楽しく書くことができた。 他にも、第4回課題でプログラミング言語を使った小説を書いたり、Twitterの発言も情報技術に関するものが多かったりと、思いのほかソフトウェアエンジニアが板についていたのである。 それに対し、選出されたというプレッシャーを背負って締切に追われながら実作を書くのは、正直なところけっこう苦しかった。 加えて、講座のゲスト作家や編集者から作家という職業の現実の話も聞き、職業作家になりたいという気持ちはだいぶ薄れてしまった。 そういった事情もあり、小説を書くのは趣味くらいがちょうどよいのかなと思うようになっていたのである。

つまるところ何が言いたいかというと、SF創作講座を終えたこれからも、ソフトウェアエンジニア兼アマチュアWeb作家の「フジ・ナカハラ」として活動していくのでよろしく、ということだ。

あらためて、よろしくお願いします。

SF創作講座第8回を終えて

一昨々日、ゲンロン 大森望 SF創作講座 第3期 の第8回講評会が開催された。 今回のゲスト講師は、小川哲氏と、早川書房の奥村勝也 @kokumurak 氏だ。

第8回の課題は「「天皇制」、または「元号」に関するSFを書きなさい。」というもので、23編の梗概が提出された。 私は『式年遷皇』というタイトルのものを書いた。 この講座では、提出された梗概の中から3あるいは4編を講師が選出し、選ばれた受講生は次回までに実作を書くことになっている。 今回、私の作品がその内の1編として選出された。

また、第7回課題「経過時間を設定してください」で選出された3編と自主提出8編の実作講評も行われ、10点+未提出者25名分の25点の計35点が各作品に割り振られた。 今回、私は実作を提出していない。

課題について

課題の詳細は次のようなになっている。

平成という時代が終わるまでの数ヶ月、「天皇制」とは何か、「元号」とは何か、国民全員が改めて考える時期となるでしょう。
こういった内容に踏み込んで自由に創作できるのは、今だけです。

かなり限定されたテーマですので、「天皇制」や「元号」については可能な限り広義の意味で解釈して構いません。(中略)必要とされるのは、SFを通じて初めて可能になる視点から、「天皇制」や「元号」について真摯に考えることです。

かなり攻めたテーマである。 「天皇制」も「元号」も数千年の歴史ある仕組みであり、現代でも大きな意味を持っている。 「必要とされるのは、真摯に考えること」と書かれているが、本当に「真摯に」向き合うとなると生半可なことではない。 それも「SFを通じて初めて可能になる視点から」である。 この点で難易度はさらに上がる。

課題を聞いた瞬間は面白いと思ったが、すぐに厄介なテーマだと感じるようになった。 私自身は、天皇制にも元号にも大した関心を払ったことがなく、高校以前に習った以上のことは何も知らない。 まずは調べるところからだが、やはり興味の薄い分野なのであまり身が入らない。 「SFを通じて初めて可能になる視点」となるとさっぱり見当がつかなかった。

結局、締切2日前までろくに調査が進まず(年末年始を挟んだこともある)、難しく考えることはやめた。 とりあえず「未来の天皇制」を書けばSFっぽくなるだろう。 また、天皇制に真っ向から立ち向かうとボロが出るので、比較的他人より詳しいコンピュータ・サイエンスっぽい話にすりかえたい。 そんな漠然としたところから梗概を書き始めた。

余談だが、小川氏は「新しい人権または差別を考えなさい」というような課題にするか迷っていたらしい。 前々回の課題で〈血縁差別〉について書いたばかりだったので、「人権」よりは「天皇」で良かったと思う。

作品について

着想はアピール文に書いたとおりである。 講座も8回目ということで、1,200字の梗概(いつも少し超えてしまうが)もだいぶ書き慣れてきた。

講評について

小川氏と奥村氏は丸、大森さんは三角という評価だった。 ただし、小川氏の丸は二重丸・丸・三角の三段階評価の丸といったもので、今回二重丸に該当するものはなかったらしい。

正直、今までのものと比べると自己評価がかなり低かったので、講座での評価は意外だった。 講師の方たちが「ヴァーチャルな天皇」に私自身が考えていた以上の意味を見出していたように感じる。 選出されたので実作を書くつもりではあるが、いかんせん書くことになるとは思っていなかったので苦戦しそうだ……。

SF創作講座第7回を終えて

一昨日、ゲンロン 大森望 SF創作講座 第3期 の第7回講評会が開催された。 今回のゲスト講師は、飛浩隆 @Anna_Kaski 氏と、早川書房塩澤快浩 @shiozaway 氏だ。

第7回の課題は「経過時間を設定してください」というもので、23編の梗概が提出された。 ただ、今回私は梗概を提出しておらず、また、梗概講評にも参加していないので詳細はわからない。

私は、前回の「キャラクターの関係性で物語を回しなさい」で梗概が選出されていたので、その実作を書いた。

作品について

まず、梗概講評で指摘された以下の2点に対応するところから始めた。

  1. 主人公の葛藤や成長がない
  2. テーマに新鮮さがない

1に関しては、友人スコットと父親ロバートという別の視点をもつ登場人物を増やし、彼らとの関わりから主人公をもう少し悩ませることにした。

2に関しては、「『すばらしい新世界』に重なる」という大森さんの指摘と、「最近の『毒親』の話が取り入れられるとよい」という溝口氏の指摘があった。 『すばらしい新世界』の社会は、生まれながらの階級社会である。 これを真逆にして生まれながらの平等社会という世界設定を置き、その社会の問題をスコットに語らせることにした。 次に、スーザン・フォワード『毒になる親』を読んで、「毒親」の話を持ち出す役割をロバートに与えた。

ここまでで約10日ほどかかってしまった。 梗概講評から実作提出まではたった22日しかない。 すでに半分弱である。

選出されたからには、提出できない事態だけは避けたい。 ということで、いったんたたき台となるものを書くことにした。 そして、それが完成した段階で締切がきてしまった。

もちろん、納得のいくものはできていない。

何より、扱うテーマが大きくなりすぎた。 梗概は、親子の愛を〈血縁差別〉で否定する、という単純な構造だった。 しかし、スコットが〈血縁差別〉による否定を批判し始めたので、話がややこしくなってしまった。 また、「毒親」の話もいまいち咀嚼できていなかったので、ロバートも無理やり喋らされる感じになっている。 最後はロールズの無知のヴェール的なところに着地させたが、結論ありきだったので前段の話と噛み合っていない。 世界観やテーマの主軸を詰める余裕がなかったので、全体的に議論が抽象的でふわっとしている。 ただ、仮にその辺りを詰めた場合、短編に収まらない気もする。

終わってみて、梗概のまま自分の手に収まる範囲で書けばよかったと少し後悔している。 思えば、第2回で書いた実作『サイボーグ・クラスメイト』のときもそうだった。 次書くときは、他人の意見を真に受けすぎず、自身の軸がぶれない範囲で書くようにしたい。

講評について

案の定、醍醐味となるべき価値観の転換がうまくいっていないという評価だった。 記憶が曖昧だが、飛さんからは「皮膚感覚で伝わるものがない」というようなコメントをいただいた。 「皮膚感覚」という言葉は意外だったが、腑に落ちるものがある。

点数は飛さんからの1点のみだった。 2回選出されて両方1点で、さらに実作提出回は梗概を出せていないため、梗概を毎回提出している生徒と合計点は同じになっている。 まあ、選出されたうえで1点というのはそうそうない低評価なので、よっぽど書けてないんだろうな……。

SF小説ではないけれど、『ハンター・ハンター』や『レベルE』の冨樫義博も連載デビュー作は『てんで性悪キューピッド』だったわけで、初期の作品からはまったく思いもよらない作品が生まれることもある。 それを励みにがんばりたい。

SF創作講座第6回を終えて

一昨日、ゲンロン 大森望 SF創作講座 第3期 の第6回講評会が開催された。 今回のゲスト講師は、長谷敏司 @hose_s 氏と、早川書房溝口力丸 @marumiizog 氏だ。

第6回の課題は「キャラクターの関係性で物語を回しなさい」というもので、25編の梗概が提出された。 私は『透明な血のつながり』というタイトルのものを書いた。 この講座では、審査員が提出された梗概の中から3または4編を選出し、選ばれた受講生は次回までに実作を書くことになっている。 今回、私の作品がその内の1編として選出された。

また、第5回課題「来たるべき読者のための「初めてのSF」」で選出された4編と自主提出8編の実作講評も行われ、10点+未提出者18名分の18点の計28点が各作品に割り振られた。 今回、私は実作を提出していない。

課題について

今回の課題「キャラクターの関係性で物語を回しなさい」は、詳細で次のように書かれている。

キャラクターを二人以上作って、その人間(?)関係で回る物語を作って下さい。

キャラクターがSFらしいギミックを背負っているようにしてください。(中略)キャラクターの関係がSFらしいギミックになっているものでもありません。

比較的わかりやすく、また、「講座」らしい課題だと思う。

しかし、第2回課題で提出した『サイボーグ・クラスメイト』ですでにSFらしいギミックを背負ったキャラクターは描いているし、そうしたキャラクターを中心に物語を回す書き方が私にはあまり向いてなさそうだということもわかっている。

そこで、今回は「キャラクターの関係がSFらしいギミックになっているもの」を考えることにした。

作品について

SF的なギミックを使って「親子」という関係を変容させてみた。 提出した梗概とアピール文に書きたいことはだいたい書けたので、あまりここで補足することはない。

今回、実作を自主提出しようとしていて(完成しなかったが)、梗概に取り組み始めるのがかなり遅くなってしまった。 締切前日にようやくアイデアが生まれて、当日は有給をとって一気に書き上げた。 その割にはうまくまとまったんじゃないかと思う。

講評について

長谷氏と溝口氏の二名に丸をいただいた。 溝口氏の評価は上から3番目だったとのこと。

大森さんには、「SF的には『すばらしい新世界』に重なるところがある。あえて今これを書く意義は感じられなかった」というようなコメントをいただいた。

じっさい、『すばらしい新世界』は梗概を書くときからかなり意識していた。 個人的には、テーマの焦点を『すばらしい世界』からずらしたつもりだったが、そこまで大きな違いには見えなかったようだ。 今回、実作へ進む4作の1つとして選出されたので、そちらで挽回したい。